2009年03月17日

その三「人形」

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*球体間接人形作家・摩有氏作品「鴇羽」 Photo by Fukuchi


   鴇色吐息
                                宮ア二健

「あれまぁー……!
なんていじらしいんでしょ」
初めて出会った時の感慨です。

お人形さんは、黒い布を被せられた腰掛に、
ゆったりと腰を下しておられました。
人間の赤ちゃんほどの身の丈です。
春愁に駆られた痩身の少女です。
お着物姿…、振袖です。
おぐしに花の小枝の髪飾り。
うつむき加減の優しく憂える眼差しは、
ちょっと見る角度を変えると、
怪しく鋭い眼光を放っていて、一瞬ひるみました。
そうそう、私が連想したのは、
シベリアン・ハスキー犬の青い目です。
お人形さんの目は赤っぽいですが…。
充血とも違って、桃紅の薄くくすんだ
ような色調とでも申しましょうか。
睫毛や眉毛は、淡い栗色とか鞍色で、
お顔の起伏ともどもエキゾチックです。

そんな振袖のエトランゼと出会い、
年甲斐もなくどぎまぎさせられました。
けなげな手作りのお人形といえども、
ちゃんと存在感があり、人格や風格さえも感じます。
単なる飾り物や手遊びの品とは思えません。
このお人形さんは何処へ行って、どう納まるのでしょう。
しょせん人様のモノといえども、モノを超えて
魂を宿したお人形さんだと、思わずにはいられません。
今後の住居、生活、交流、宿命、禍福など、
気にしたら、あれもこれも気がかりです。

もし出来ることなら、私が小さくなって、
お人形さんの体内に潜んで住み込み、
外界の現実ドラマの動画記録を撮りたいです。
痴話喧嘩やお葬式など、
人間模様の展開は当然ですが、
何気に猫が匂いを嗅ぎに来たりしそうです。
今時、鼠が出る家はないでしょうが、
昔なら、練り物のお人形さんは格好の餌食です。
仕舞い忘れた雛人形や招き猫は、
無残にも指や耳を鼠に咬まれたのでした。
そういうこともあって、猫を飼う家も多くありました。
そう言われると、このお人形さんのこのポーズ、
膝の上で猫を撫でているようにも見えます。
花模様の振袖が座布団代わりです。
花時の優しい日差しで日向ぼっこです。
いい子いい子されて、目を細めています。
ゴロゴロと咽を鳴らして、気持ちよさそう。
ご満悦の猫です。
〜こんな空想を誘ってくれた
お人形さんの鴇色吐息でした。

そうそう、愛らしい振袖は、淡い桜花模様です。
小さな身体の小さなお着物は、桜の季節酣です。
その細やかな明暗の諧調に、柔らかい日が差し、
景の奥行きと、少女の奥床しさが表れています。
奥行きは、時の流れ、…流転を思います。
奥床しさは、雰囲気、…思慮深さを思います。
気高く慕わしい少女は、花時のエトランゼ。
「ヘイ!メランコリック・キモノ・ドール」

お召しの振袖は、
細かく皺の寄った生地、…ちりめん。
流転への思いの馳せは、
時に漣の波紋、その煌き、時に砂紋へと、
風の創り出す紋様世界に飛躍します。
ちりめんからは、潤いも渇きも感じます。
子供の時分、姉のお手玉もちりめんでした。
丈夫で地味ですが、木綿のもありました。
中身は小豆でした。
昔、母親が端切れで作ったことを覚えています。
当時、小学生の姉は家が貧しかったので、
欲しかった人形が買ってもらえませんでした。
母親は、飽きられていたセルロイドの裸の
キューピーさんに、水色の洋服を作って
着せて上げました。
下校し帰宅した姉が喜びました。
見向きもされない物にも手を加えると、
蘇るのだということを知りました。
姉は高校生になってから、自分で稼いだお金で、
子供っぽいと思われるお人形さんを買ったのでした。
当時、中学生の私の目から見て、そう思いました。

姉は私より三歳年上です。
当時、母親は土建屋の人夫でした。
父親は変電所員で単身赴任でした。
家には常に鼠獲りの上手い猫がいました。

お人形さんのお名前は「鴇羽(ときは)」。
振袖もお目々も鴇羽色の色香が漂います。
あっ、
唇が開いて、鴇羽ちゃんが
何か言いかけています。
歯もちゃんと生えています。
今までチャーミングな口元の
黒子を見逃していました。
小さな発見のたびドキッとします。
四肢や首を動かすことが出来る
球体関節人形とはいえ、
やはり、接すれば気持ちが動かされる
鴇羽ちゃんは、生きています。
鴇羽ちゃんには、仕舞い忘れていた
素朴な情感を呼び覚まされました。
こうやって、忘れ去られていた
思いや気持ちに会うことができました。
生かされている感覚を、
大事にしたいと思います。

物言わぬ鴇羽ちゃんご本人を初め、
産みの親の天女さま、マリアさま、
私に踏絵を仕掛けた茶会記のご主人、
どうも、ありがとうございました。


▽mayu's doll † 鴇羽 †
 http://www1.ttcn.ne.jp/~mayu-g/

WWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWW
[♪執筆中に使用したBGM(CD)]
・Umezu Kazutoki「Plays the ENKA」(doubtmusic)
・John Zorn「THE GIFT」(TZADIK)
posted by samuraisakaiki at 19:26| Comment(3) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こちらに
お邪魔していいものかと迷いつつ……

被写体、鴇羽(ときは)に代わり、
制作人の私が、ご挨拶に参りました。

殿方おふたりに、真摯に見つめられつつ、
気恥ずかしくも、嬉しゅうございます……。

どうも有難うございます。


追伸:往復書簡、末永く続きますよう
   陰ながら、応援しております。
Posted by 摩有 at 2009年03月17日 19:27
うわっ!
人形作家様ご本人からのコメント!
ありがたや、、恐れ入ります。
茶会記カウンターでの思いつきで、
こんなこと始めちゃいまして…。
写真家黄鳥と作家奇鳥の、
身の程知らずの雄同士の往復書簡、
無報酬の伝書鳩でしょうか。
この先どうなりますことやら。
摩有さん、
鳩じゃなくてもカナリアになって下さい。
いや、トキですね。ドキドキ
Posted by 二健 at 2009年03月17日 19:28
鴇色吐息

見事なる表現をされました。
わたしはそこにテンションも感じます
緊張感の線、美への琴線

お人形さんの吐息の音を聴ければ
至上です。
Posted by 喫茶茶会記 at 2009年03月17日 19:28
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